Episode ここだけの話など

004.『有言実行』

 
松本幸治(ゆきはる)君との約束は、一緒に本を出すことだった。
彼とはフェイスブックで知り合い、私の『秘録・自民党政務調査会』(講談社)出版記念講演会に車いすで来てもらった。御礼に松本君が入所する「社会福祉法人川崎市社会福祉事業団 れいんぼう川崎」まで行ったことがある。その時に「本を出そう。私がプロデュースするから」とお話したのだ。
 
それを私は一年以上もそのままにしておいた。
政治・外交・防衛・憲法といった私の専門分野では、わりあい原稿は書けるのだ。
しかし、松本君との本で何を書くかをいろいろ悩んだが、なかなか名案が浮かんでこない。
でも、何とかしなければいけない。
そんな時、ふと、私と自民党が一番苦しかった時は?との思いがよぎった。
 
それは、自民党が選挙に負けて、野党に転落した時だ。
普段は与党で良いが、野党になるとあらゆる面で厳しくなる。
自民党が細川連立政権で野党になった時には、自民党に来る人がいなくなり「閑古鳥が鳴いていた」と揶揄された。
こうした危機の時に、本来の「底力」があるか否かがわかる。
 
今回の新型コロナウイルスの危機の時は、人・政治家及び政府・政党の真価が問われる。
現在は新型コロナウイルスの対応の真っただ中にあり、その成否は後日、検証・総括される。
 
政治を考えると、政党は野党の時にこそ、その真価が問われる。
自民党は二度野党に転落し、その後、与党に返り咲いた。
 
なぜ、今の野党が駄目かというと、かつての民主党を考えるとハッキリする。
民主党は、鳩山由紀夫氏が代表の時に政権に就いた。当時は、大変な高支持率だった。その後、菅直人、野田佳彦両氏が首相になったが、総選挙で敗北し野党に転落した。
 
その後、民主党はどうしたか?
「選挙で負けたのは、自らの責任でなく民主党という名前が悪かったからだ。だから政党名を変えればいいのだ」
といって、台湾の政権党と同じ名前の民進党に変えた。
それでもダメだとなると、総選挙直前に、民進党を解党し、小池都知事が作った希望の党へ合流し、それに入れなかった枝野幸男氏が立憲民主党を立ち上げた。
 
民主党は、立憲民主党と国民民主党に分裂したままだ。
これでは、なかなか与党になることができない。
自民党は、細川連立政権と民主党政権の二度にわたって野党に転落した。
最初に野党になった時、私は橋本龍太郎政務調査会長の下で会長室長を務めた。
その時に、ネバーギブアップと言って頑張ったからこそ、今日の私も自民党もある。

その時、
私は?
橋本龍太郎氏は?
自民党は何をしたか?
――について書くことにした。
 
「有言実行」とは、いまの首相の安倍晋三氏の父君である安倍晋太郎氏の座右の銘である。
安倍晋太郎氏は、中曽根康弘氏、河本敏夫氏、中川一郎氏と総裁選を争った後に、中曽根内閣の外務大臣となった。その後の参議院選挙で、私が安倍外相の全国遊説の担当となり、全国を一緒に回った。
安倍氏とその間にいろいろと話をする機会に恵まれ、大変勉強になった。
安倍氏は帝王学を身に着けていて、床柱が似合う政治家だった。

安倍外務大臣・第38回国連総会での演説 出典:国連広報センター

 
私に「尊敬する政治家は?」と問われると、「安倍晋太郎」と答える。
 
松本幸治君との約束を守ろうと考えていた時に、安倍晋太郎氏の「有言実行」という言葉が脳裏をよぎった。
そこで、さっそく、私のネバーギブアップを書くことにした。

令和二年六月 田村重信
 
『ネバーギブアップ 絶対にあきらめない』(松本幸治、田村重信共著)